みなさん、こんにちは。
真夏の熱気が立ち込める2026年8月、ワルい子のためのブッククラブでは課外活動イベントとして、歌舞伎座の夏の風物詩である「八月納涼歌舞伎」第一部、通し狂言『怪談 牡丹燈籠』の観劇会を開催いたしました。
幕末から明治にかけて活躍した稀代の落語家・三遊亭円朝の最高傑作であり、大西信行脚本によって現代の歌舞伎としても研ぎ澄まされてきた本作。
坂東巳之助、尾上右近、市川染五郎ら気鋭の花形世代と松本幸四郎が魅せる緻密な舞台演出を観劇してまいりました。
美しくも妖しい幽霊の恋と、人間の生々しい強欲が交差した、スリリングなお芝居の模様をレポートします。
💡 幽霊の儚さと「人間の業」──解き明かされる『牡丹燈籠』の真の狂気
「怪談」というタイトルからおどろおどろしいホラー作品を想像しがちですが、本作では「これは単なる幽霊の怪異譚ではなく、人間のドロドロとした強欲と業(ごう)を描いた極上のサスペンス劇」として捉え直していきます。
三遊亭円朝(松本幸四郎)が高座で物語を語り進めるモダンな演出のもと、物語は波乱の展開を見せます。
萩原新三郎(市川染五郎)への恋ゆえに気鬱の病となったお露(辰之助)たちと、お国(坂東新悟)と深い仲である宮野辺源次郎(中村橋之助)の舟がすれ違う場面は、まさに交錯する運命を予感させる美しいプロローグです。
やがて焦がれ死にしたお露と乳母のお米が牡丹燈籠を携えて新三郎のもとへ現れますが、その部屋を下男の伴蔵(坂東巳之助)が覗き見る場面のゾクリとする妖しさと演出の美しさに、客席全体が息をのみました。
第一幕の幕切れで新三郎が美しい幽霊に憑り殺される凄惨な美しさ。
けれど、ここで「本当の恐怖」として立ち現れるのは、その背後に蠢く生身の人間たちの欲望でした。
「新三郎とお露の死を越えた恋の美しさに対して、生きている人間たちの浅ましさ! 幽霊の祟りより金が欲しい伴蔵たちが、100両という大金を手にした瞬間にどう狂っていくか。円朝が描いたのは、怪異を利用して欲にまみれていく人間のリアリズムそのもの。心理サスペンスです。
🎭 伴蔵×お峰(巳之助×右近)の可笑しくも恐ろしい夫婦像と、幸四郎が魅せる二役の妙
今回の配役において特に大絶賛されたのが、伴蔵を演じた坂東巳之助と、妻のお峰を演じた尾上右近の阿吽の呼吸です。
「お札はがし」の場面では、幽霊に恐怖しながらも自らの欲を丸出しにして交渉する伴蔵とお峰のやり取りに場内が爆笑に包まれました。
しかし物語はそれだけでは終わりません。
1年後、幽霊から手に入れた100両を元手に大店の主となった二人ですが、伴蔵がお国に入れあげている話を聞きつけたお峰が怒り心頭となり、夫婦の間に決定的な亀裂が走ります。
滑稽な市井の夫婦喧嘩から一転、生々しく緊迫した駆け引きへと変化していく様子を巳之助と右近が見事に演じ分けたことに、大きな拍手が送られました。
また、語り部である三遊亭円朝と、伴蔵の悪事をバラす馬子久蔵の二役を演じた松本幸四郎の存在感も秀逸です。
• 構造を支えるメタ視点: 円朝として高座から物語をコントロールしつつ、作中人物(久蔵)としても物語を揺さぶる構造の巧みさ。
• 「型」と「口語」の融合:
落語由来の軽妙な語りと歌舞伎の様式美が融合し、現代の観客を一瞬で江戸・明治の空気感へと引きずり込む。
🕯 蛍が舞う土手、そして本水の雨が降りしきる幸手堤の惨劇
物語後半に訪れる圧倒的な舞台美と「美意識とエロス・タナトス(死への欲望)」へ。
犯した罪を悔いる源次郎(中村橋之助)がお国(坂東新悟)と抱き合いながら突然刀を抜く土手の場面。
暗い舞台の上にふわりと舞い飛ぶ蛍の光が幻想的に二人の悲劇を包み込む演出の美しさに、感嘆の声があがります。
そして物語は、暗雲が立ち込め遠雷が轟く幸手堤へ。
本水の雨が容赦なく降りしきるなかで繰り広げられる伴蔵とお峰の愛憎劇と、欲望に狂った人間の業が迎える凄惨な幕切れ──。
美しさとグロテスクさ、愛と殺意が紙一重で隣り合っている。
本水の激しい雨の中で人間が自滅していくカタルシスは、これぞ歌舞伎が培ってきた『悪の美学』の真骨頂!
生身の人間が持つ狂気をここまで美しく魅せる演出は、納涼歌舞伎ならではの贅沢なものでした。
「カランコロン」という下駄の音の聴覚的なフェティシズム、そして本水の雨の中で繰り広げられる人間劇。
真夏の歌舞伎座という贅沢な空間で味わう体験は、単なる涼みにとどまらない濃厚な内容でした。
当クラブでは、現代文学や映画にとどまらず、古典芸能やポピュラーカルチャーの中に潜む「人間の欲望と社会の構造」を解剖するイベントを今後も開催してまいります。
次回のイベントや読書会も、どうぞご期待ください!
次回のワル読は?
月イチ読書会!
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