湯山玲子ワルい子のためのブッククラブは、「常識」をいったん脇に置き、文学や漫画、映画、カルチャーを通じて、自分の思考の癖や社会の前提を問い直す読書会です。

今回取り上げたのは、Netflixの人気SFアンソロジー『ブラック・ミラー』!
ワル読初!となる映像作品を題材に、SNS、監視社会、仮想空間、老いと死などについて語り合いました。 

10年前のSFが「今」を映している


『ブラック・ミラー』について、参加者から多く聞かれたのは、「遠い未来の話に見えない」という感想でした。

作中に登場するのは、人間関係の数値化、子どもの行動を管理するシステム、仮想空間での恋愛、デジタル化された人格など。かつてはSFだった技術や価値観が、すでに私たちの日常へ入り始めています。

『ブラック・ミラー』が描いているのは、技術の便利さや恐ろしさだけではありません。その技術を使う人間の承認欲求や支配欲、孤独、愛情といった、古くから変わらない感情です。 

「ランク社会」|SNSの息苦しさ


特に議論が盛り上がったのが「ランク社会」です。

あらすじ

人々が互いを5段階で評価し、その点数が仕事・住居・人間関係まで左右する社会。
高評価に執着するレイシーは、理想的な結婚式への出席をきっかけに人生を好転させようとするが、失敗が重なり、評価も生活も崩壊していく。


作中では、誰もが互いを採点し、その評価が仕事や住居、社会的地位まで左右します。参加者からは、「数値として明示されていないだけで、今の社会も似ているのではないか」という声が上がりました。

SNSのフォロワー数や「いいね」の数、職業、交友関係、結婚や子どもの教育まで、私たちはさまざまな基準で他人を評価し、自分も評価されています。

湯山さんが注目したのは、すべてを失った主人公が、最後に囚人同士で思い切り悪口を言い合う場面です。高評価を得るために抑えてきた感情を解放し、ようやく人間らしさを取り戻す――。息苦しい物語の先にある爽快感が語られました。 

「アークエンジェル」|愛情と支配の境界線

あらすじ

娘を心配する母親が、位置情報や健康状態を監視し、刺激の強い映像まで遮断できる装置を娘に埋め込む。
保護のためだった監視は、娘の成長とともに過剰な支配へ変わり、親子関係を追い詰めていく。


「アークエンジェル」では、子どもを守りたいという親の愛情が、監視や支配へ変わっていく過程が描かれます。

娘の位置情報だけでなく、見ているものや感じている刺激まで確認する母親。子どもの立場からは「こんな母親は勘弁してほしい」という感想が出る一方、子育て経験者からは「使いたくなる気持ちもわからなくはない」という声もありました。

安全を守ることと、子どもの自由や人権を守ること。その境界はどこにあるのでしょうか。GPSによる位置共有が身近になった現在、決して他人事ではないテーマです。 

「ストライキング・ヴァイパーズ」|湯山さんお気に入りエピソード


湯山さんが「圧倒的に好き」と語ったのは「ストライキング・ヴァイパーズ」!!

あらすじ

ダニーとカールは、若い頃から格闘ゲーム「ストライキング・ヴァイパーズ」で遊んでいた親友同士。
数年後、ダニーは妻テオと子どもを持ち、安定しているが刺激の少ない生活を送っている。独身のカールは誕生日に、五感を完全に再現するVR版ゲームをプレゼントする。

ゲーム内でダニーは男性キャラクターのランス、カールは女性キャラクターのロクセットになる。
最初は普通に対戦するが、戦いの途中で二人のキャラクターがキスをする。その後、二人はゲーム内で繰り返し性的関係を持つようになる。
二人は現実でも恋愛感情があるのか確かめるため、直接会ってキスをする。
しかし現実の男性同士としてのキスには、二人とも何も感じない。
そこから口論と殴り合いになり、警察に連行される。

ダニーは罪悪感を抱き、妻との性生活からも距離を置く。
妻は夫の態度から浮気を疑うが、ダニーは本当のことを言えない。

最後には、夫婦がある種の取り決めをしたことが示される。
年に一度、ダニーはカールとゲーム内で関係を持つ。その同じ夜、妻も結婚指輪を外し、バーでほかの男性との出会いを楽しむ。
二人は欲望を完全に抑圧するのではなく、条件つきで婚外の体験を認め合う道を選ぶのである。


これは友人愛なのか、人間愛なのか!?
そもそも友人関係の親密さと恋人関係の親密さの違いってなんなんでしょう?

作中のダニーとカールは、「ヘテロセクシャルとして断固!」といういかにもな立場で描かれますが、実際ゲームの中で男女の関係になったら「ア、アレ…?俺たちって意外とイけるんじゃね?」となってしまった次第なわけです。
でも、現実でおじさん同士でチューしてもゲーッという。。。笑

この物語の面白いところは、単にヘテロ↔︎同性愛という矢印だけではなく、夫婦関係やパートナーシップをどう維持するかというテーマにまで波及していることです。
夫婦関係を維持することと、個人の自由な恋愛を謳歌したいというのは、現実社会ではタブー中のタブーな感情ですが、実はこういう二重性に苦しむ方って多いのでは…?

その意外な着地も含め、湯山さんのトークはますますヒートアップ!

セクシュアリティから性的欲望、夫婦関係、身体と人格、人間の定義まで縦横無尽に切り込む湯山さんが、今回もキレッキレ!!
安定の“湯山節”が炸裂する様子は、個人的にもかなりツボでした笑(ぺこ丸談)

この熱量は文章だけでは伝えきれません。ぜひアーカイブでご覧ください! 

「サン・ジュニペロ」|老いと死を超えても幸福になれるのか

1980年代風の海辺の街サン・ジュニペロで、内気なヨーキーと自由奔放なケリーが出会う。
しかし、この街には時間や現実を超えた秘密があった。
愛、老い、死後の意識を描く切なくも温かな物語。


「サン・ジュニペロ」をめぐっては、参加者の評価が大きく分かれました。

死を目前にした人々が、若い姿で仮想空間に生き続けられる世界。
死を受け入れるのか、それともテクノロジーを使って、新しい愛や青春を選ぶのか。物語は、伝統的な死生観と個人の幸福をめぐる選択を描きます。

一方で、デジタル化された意識を誰が管理するのか、運営企業がなくなれば人格はどうなるのかという問題も残ります。
希望に満ちた結末の背後に、倫理的・哲学的な影がある。その「甘くなさ」も『ブラック・ミラー』の魅力です。 

テクノロジーではなく、人間を描く


湯山さんは、『ブラック・ミラー』のすごさについて、

技術の進歩そのものではなく、それを使う人間の欲望や不安、権力関係を描いている点

にあると解説しました。

「宇宙船カリスター号」では
支配者になりたい欲望が、

「ブラック・ミュージアム」では
人間の苦痛まで商品化する医療ビジネスの危うさが描かれます。

どれほど未来的な設定でも、最後に浮かび上がるのは「人間とは何か」という古典的な問いです。 

『ブラック・ミラー』の次は、現実と異界の“境界”へ


『ブラック・ミラー』が、テクノロジーによって日常が少しずつ歪んでいく恐怖を描く作品だとすれば、次回のテーマ「リミナルスペース」が扱うのは、見慣れた空間がふいに異界へ変わる恐怖です。

誰もいない廊下、無人のショッピングモール、人気の消えた駅や地下通路――。
本来なら見慣れているはずの場所なのに、なぜか落ち着かず、妙に心がざわつく。
そんな日常と非日常の“境界にある空間”を、リミナルスペースと呼びます。

9月の読書会では、『リミナルスペース――新しい恐怖の美学』を手がかりに、この奇妙な感覚の正体を読み解きます。

さらに今回は、9月4日公開の映画『バックルーム』をめぐる最速感想会&湯山玲子さんのレクチャーも実施!

『バックルーム』とは、日常空間の裏側に広がる、出口のない不気味な異空間を描いたインターネット発の怪奇ジャンルです。
大ヒット作『8番出口』にも通じる、無人の通路、繰り返される風景、説明できない違和感――。
私たちはなぜ、こうした“何も起きていない空間”に恐怖を感じるのでしょうか。

『ブラック・ミラー』が映し出したのが、テクノロジーの先にある人間の欲望や不安だとすれば、『バックルーム』や『8番出口』が映し出すのは、日常のすぐ裏側に潜む正体不明の恐怖。

いま世界を席巻する「新しい恐怖の美学」を、公開直後の映画とともに最速で語り合います。
『ブラック・ミラー』に心をざわつかされた皆さん、次は日常と異界の境界へ足を踏み入れてみませんか? 

次回予告📣


▽月イチ読書会


◾️9/17(木)20:15〜 
『リミナルスペース――新しい恐怖の美学』


9月4日公開の映画『バックルーム』最速感想会&湯山玲子さんによるレクチャーも開催。大ヒット作『8番出口』とのつながりにも注目しながら、いま話題の“新しい恐怖”を読み解きます。

◾️10/29(木)20:15〜  
村上春樹『夏帆』

 ▽課外活動


◾️9/13(日)17:00〜18:30 
浅草演芸場


◾️10/21(水)19:00〜  
ベルカント王国

アーカイブ動画はこちら💁‍♀️